
「ガチアクタ」
アニメ業界もボンズも、日進月歩で進化している
――近年、業界全体として、フリーランスのアニメーターへの依存度を減らし、社内アニメーターを増加させる動きがあり、ボンズも例外ではないと伺っています。制作進行の立場から、そうした動きの影響についてはどう受け止めていますか?
藤本:近年はアニメの作品本数の増加で、フリーのアニメーターに依頼するのが年々難しくなってます。そんな中で社員アニメーターを増員させる動きや、拘束(中~長期間での月額固定費による一社専属契約)するアニメーターを増やすメリットはかなり大きいと感じますね。例えば『ガチアクタ』は、ボンズ作画部の出身の方たちが重要なシーンの作画でたくさん関わっている作品です。長く社内でお世話になっているアニメーターなら、その人の得意不得意がわかりますから、こちらも依頼しやすい。アニメーターの好みや性格、得意分野を理解した上で作画をお願いできることは、今後の関係性作りにおいても意味があると感じます。
久米:藤本の言うとおり、制作進行とクリエイターが対等でいられることが、個人的にアニメ制作におけるコミュニケーションの肝だと思っていて。制作進行は会社員というポジションなので、ある意味で守られた立場にいる。一方、アニメーターの多くがフリーランスなので、そうした立場の違いがコミュニケーションのズレを生んでいるな、と感じる瞬間も多いんです。その時、お互いが同じ会社の人間だったら、ある種イーブンな関係性を築きやすいですね。
岡野:あとは単純に、社内アニメーターに対しては気軽に相談がしやすいというメリットもあります。例えばラッシュで複雑なリテイクが出た時に、社外の人だとコミュニケーションのすれ違いで何度も手戻りが発生することも多くて。その点、社内のアニメーターなら事情を話しやすいし、手戻りが減って他セクションの負担が軽減できるメリットもあります。
――なるほど、制作現場でも実感として感じられる影響が出ているのですね。また、ボンズといえば複数スタジオが存在し、その中で作品ごとに全く異なる制作ラインを持っていることも特徴的です。所属するスタジオのカラーはありますか?
久米:自分は入社から継続してCスタジオ勤務なのですが、今は本当にアットホームですね。スタッフはみんな仲が良いし、先輩後輩でコミュニケーションしやすい空気感です。Cスタジオは僕のヒーローアカデミアが長期シリーズということもあり、良い意味で長く同じ人たちで支えていますね。
岡野:私も入社してからずっとDスタジオなのですが、個人プレイよりもチームプレイを大事にする印象が強いですね。自分の話数だけではなく、他の話数状況も気にかける制作が多い。動画撒きや二原撒き(原画の修正を、別の原画マンが行うこと)を探す時も、他話数の制作が一緒に手伝ってくれる印象です。
藤本:僕もずっとAスタジオなんですが、アクが強い、個性派の人たちが集まっているなと感じます。もしかしたら自分もその一人なのかもしれないですけど……。だからこそ、制作一人ひとりが自分のやりたいように業務に集中できる、伸び伸びと働けるスタジオだと思いますね。
久米:どのスタジオであっても制作同士でよく雑談したり、お互いにどんな課題を抱えているか共有する雰囲気は変わらないと思います。逆に、他部署との仕事以外での交流は、日常的にはあまり多くないですね。会社で花見やBBQ会が時々開催されるので、他部署の人たちと仲良くなりたい人はそういうイベントに参加する手もあります。

「僕のヒーローアカデミア」
たとえ今の自分に制作進行の素質がなかったとしても……現役から未来の仲間に贈る言葉
――皆さんは入社4年目ですが、ボンズでは、どのようなキャリア支援体制があるのでしょうか?
久米:プロデューサー志望と演出志望で、社内におけるキャリアの育成方法がそれぞれ違ってきます。プロデューサー職に関しては、制作進行の業務と、デスクやプロデューサーに昇進した時の業務とでは、全く内容が変わってくるので、その橋渡しをスムーズに行うための支援がメインです。例えば、制作のチーフが主体になった制作のノウハウを共有するワークショップは定期的に開催されていますね。また、専門的な業務知識を共有するためのプロデューサー講習会も希望者向けに用意されているので、役職のエスカレーションに関しては以前よりスムーズになってきていると感じます。
藤本:演出志望向けの支援では、実務ベースでの演出や監督のチェックが受けられることでしょうか。例えば『ガチアクタ』は3Dソフトを使って作品内のレイアウト(画面の構図決め)を決めているのですが、それを実際に触って、自分が作った3Dレイアウトを監督や演出にチェックしてもらう機会もあります。
久米:ただ、いくら支援体制が充実していたとしても、制作進行の段階から、プロデューサーや演出になる将来を具体的に思い描けていた方が良いですね。
――ボンズ取締役/ボンズフィルム代表取締役の大薮プロデューサーも、同じことを仰っていました。制作進行のキャリア初期から、自分が将来どういう道を歩みたいか考えるように指導している、と。
藤本:そうですね。入社時に、自分の10年後、20年後の姿を想像してほしいと言われました。僕たちが最初に受講したプロデューサー講習会では、大薮プロデューサーが新人一人ひとりを指名して「演出になりたいか、プロデューサーになりたいか」を聞いていくんです。そのあと、将来そうなるためにはどうしたらいいか、常に考えて行動しなさいと言われました。ちなみに僕は講習会に遅刻して、これで今後のキャリアはないなと思ったのを覚えています……。
岡野:そんなことはないと思うけど(笑)。「自分は将来、何になりたいか?」ということを事前に考えておくのは本当に大切です。入社後も、会社側がキャリアを何もかもサポートしてくれると受け身で考えずに、目の前の業務に対して未来のキャリアを意識して行動できることが重要だと思いますね。私はDスタジオの制作進行としては最年長になったので、直近は後進育成をメインに頑張りたいと考えていますが、ここに参加している3人とも、将来的にはプロデューサー志望で、そのキャリアを意識して業務に携わっていると感じます。
藤本:制作進行は目の前の作業を雑務としてただこなしてしまうと、つまらないし、惰性になってしまうと思うんです。そうではなく、クオリティアップやスタッフ間の関係性作りに繋がる行動ができるかどうかで、その後のやり取りのスムーズさや映像の出来も変わってくる。自分のキャリアを意識して働くことも、その延長線上にあると思います。

――ありがとうございます。最後に、制作進行に大切な素質や、向いている人物像はどういうものだと思いますか?
久米:そうですね……味気ないことを言えば、いくらアニメ鑑賞が好きだとしても、制作業務とはあまり関係ないのかなと感じます。結局、制作進行はスケジュール管理を円滑に行うための情報処理能力が必要とされますし、さまざまな年齢や性格の人とコミュニケーションを取れる柔軟さも試されます。新卒で入社すると、自分が集団で一番の年下で、ひと回りもふた回りも年齢が上の人とやりとりしなければならないので。制作という立場であっても、対等に相手と会話して、課題を解決できるかどうか。シンプルですが、そうした素質を求められるように感じます。
岡野:私も、久米の答えがほとんどかな、と。付け加えるなら、一つのことに固執し続けず、臨機応変に対応できる力も必要、ということなのかな。アニメーションは各工程のワークフローが厳密に決まっているので、制作は全体像を俯瞰して、先々のことを考えて行動できる人が向いている仕事だと思います。私もできていない時はあるので、偉そうには言えないですが……。もちろん業務の最初は、目の前のことで一生懸命になってしまうのは仕方がないので、徐々にできるようになればいい。ただ、目の前の業務に対しても、将来のキャリアに対しても、今の自分ができることを精一杯考えて、自発的に動こうとする気持ちが一番重要じゃないかなと思ってます。
藤本:本当に、2人の言う通りですね。ただ、正直に言うと自分は自分のことを制作職に向いていない人間だと思っていて。もし、僕たち3人の話を聞いた上で「そんな風に動ける自信がないな」と感じた人がいたら……まぁ、制作になってから自分を変えていけばいいのだと思います。
僕は元々ぐうたらな人間で、実際に仕事をやってみても、うまくいっているとは言えないことも多いし、辛い経験も正直たくさんあります。それでも続けていると、自分が担当したアニメを世界中の人が見てくださったり、みんなで作り上げた素晴らしい作品に、自分も一つの力になれているのかなと思える瞬間があるんです。そうして何年も制作を続けていたら、周囲からも信頼されるようになって、制作進行チーフという役職もいただけるようになった。少しずつ成功体験を積み上げていけば、そのうち自信がついて、制作としての振る舞いが身についてくるんだと思います。今の自分が制作進行に向いていないと感じても、変わる意思を持っている人であれば、ボンズに入社して一緒に頑張っていけると嬉しいですね。




