Creative hub/アニメスタジオの体制が、 表現を狭める言い訳になってはならない ──業界未経験で設立されたFLAT STUDIOだからこその勝機

インタビュー

アニメスタジオの体制が、
表現を狭める言い訳になってはならない
──業界未経験で設立されたFLAT STUDIOだからこその勝機

2026.02.05

アニメスタジオの体制が、<br> 表現を狭める言い訳になってはならない<br> ──業界未経験で設立されたFLAT STUDIOだからこその勝機
石井龍

石井龍

クリエイティブスタジオ「ANSWR」、ソーシャルTV局「2.5D」、デザインコンサルティングファーム「THINKR」を経て、2019年1月イラストレーター・loundraw、小説家・佐野徹夜らとアニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」を設立。2021年11月にはloundraw監督によるスタジオ初のアニメーション映画作品「サマーゴースト」を発表した。

たかだか100年、されど100年──アニメーション業界にあって、日本のアニメスタジオにおける組織作りや方法論は、凝り固まりがちな側面がある。

しかし、業界未経験の集団で設立されたインディペンデントなアニメスタジオだからこそ、業界の商習慣や慣例を踏まえずに、これまでにない制作体制を組成することもできる。むしろ、そこにこそ、レッドオーシャン化しているアニメ業界において独立独歩で運営されるスタジオの勝機があるのかもしれない──。

2019年に設立され、当初はイラストレーター/アニメーターのloundrawのためのスタジオとして発足したFLAT STUDIOは、2021年11月には劇場版オリジナル映画『サマーゴースト(Summer Ghost)』を公開。そして2024年には、バーチャルYouTuber/バーチャルシンガーである花譜らを擁するレーベルを抱える株式会社THINKRから独立して、未踏の道を歩み始めている。

FLAT STUDIOは、スタジオを5つのチームに分けて、様々な組み合わせを実現できる可変的な体制によって、オリジナル作品や他社IP、広告制作などを数多く手掛けている。スタジオメンバーの上限を50名と決めているFLAT STUDIOは、その採用方法も独特だ。U-22世代の新鋭で構成される「CANTERA」は、日々若きクリエイターが切磋琢磨し、そのうちの一握りは正規メンバーとして採用もされる、いわく「実践型育成プロジェクト」だという。中には、全く未経験からスタートした気鋭もいるというから驚きだ。

代表を務める創設者の石井龍は、「アニメーションの作り方を作る」ことから始めたと語る。FLAT STUDIOの、独自の哲学と経験則に裏打ちされた組織作りや採用手法の、知られざる内実に迫る。

取材・執筆:フガクラ 撮影:宇佐美亮 編集:押剣山

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業界未経験で設立された、インディペンデントの異色アニメスタジオ

――FLAT STUDIOは、「イラストレーターによるアニメーション(Illustration to Animation)」を標榜し、2019年に設立された新しいアニメスタジオです。そもそもどういうスタジオなのでしょうか?

石井龍:FLAT STUDIOは、アニメーション表現が関わる領域で、オリジナル作品の企画開発事業、クライアントワークを中心とした受託制作事業、そしてアーティストおよびクリエイターのマネジメント事業を展開するスタジオです。

元々はイラストレーターのloundrawと、彼のマネジメントを担当していた僕、小説家の佐野徹夜が発起人となり、現在は社員・固定業務委託・マネジメント作家を含め、約30名ほどが所属しています。アニメーション制作に携わる基本的な制作セクションのすべてを抱えており、劇場作品であれば長編規模でも内製で制作可能な体制になりました。メンバーのバックグラウンドも様々で、元々アニメ業界にいた人間は現時点で5名ほど。ほかのメンバーは、自分やloundrawも含め業界未経験からスタートしました。

――これまで、スタジオとしてどのような作品に携わられてきましたか?

石井龍:オリジナル作品としては、loundraw監督作品のアニメーション映画『サマーゴースト』が2021年に劇場公開され、第25回ファンタジア国際映画祭において、アニメーションコンペティション部門 今敏賞 審査員特別賞と短編アニメーション部門 観客賞 金賞をダブル受賞するなど、海外を中心に高い評価をいただきました。また、Z会グループとコラボレーションした受験生応援ムービー「ふたり分の証明」や「いつかの私より」、TOHO animation 10周年企画loundraw × BUMP OF CHICKEN「天体観測」をはじめ、多くの企業のプロジェクトや広告の企画・制作を担わせていただきました。

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石井龍:現在FLAT STUDIO内にはスタジオ、メンバーの個人単位だけではなく、その中間にあたる「チーム」という単位を設けています。2023年から社内に分散型の制作チームを複数立ち上げ、背景美術チーム「ARTMOSPHERE(アートモスフィア)」、作画チーム「CANONE(カノン)」、デジタルチーム「THINMETRIK(シンメトリック)」、脚本チーム「兀兀(コツコツ)」、アニメーション制作チーム「MANAA ANIMATION(マナア アニメーション)」の5チームが始動し、チームごとに別の商流を持ち、それぞれ異なる自社プロジェクトやクライアントワークを担当しています。

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――制作チームごとに別の商流を持つということですが、具体的にそれぞれのチームはどのように仕事を進めているのでしょうか?

石井龍:例えばARTMOSPHEREは、チーム単体で他社のアニメーション制作の美術グロス仕事を受注することもあります。そのため、仕事のクレジットも「FLAT STUDIO」ではなく案件を担当した「ARTMOSPHERE」というチーム名になります。また、MANAA ANIMATIONは受託制作が専門で、主な仕事ではTVアニメ『天久鷹央の推理カルテ』エンディングムービーや『雀魂』5周年記念ムービーなど、他社IP作品を数多く手掛けています。そのためMANAA ANIMATIONに関しては、プロデューサーの松本光平がチーム統括として立ち、クレジットだけでなく公式HP( https://manaa.jp )やポートフォリオもFLAT STUDIOとは別軸で管理、運営を行っています。チームメンバー自身の主体性も大切にしているので、案件を受注する際はプロデューサーがトップダウンで決めるのではなく、なるべくチームの決定を尊重しながら参加メンバー選定をする形式ですね。

一方で長編映画などの大型作品を作る場合はすべてのチームを統合して、メンバー全員が一つの作品にコミットするようになっています。そのため、「FLAT STUDIO」というブランドは、スタジオに存在する全チームを動員した場合の総称と考えていただくといいかもしれません。

――社内に複数のチームを持つことに、どのようなメリットを感じますか?

石井龍:案件内容によってチームを入れ替えることで、様々な作風や要望に対応できる点ですね。FLAT STUDIOのシグネチャーであるloundrawのイラストをそのまま動かしたような唯一無二の作風を持つ一方で、MANAA ANIMATIONのように他社IPの雰囲気に合わせた作品も手掛けることができる。チームとして分散させることで、僕らが持っている技術と感性、それを時には切り離すこともできる形態になっています。会社にとって、チームというのはいわばそれぞれ異なる機能を持つ“モジュール”のようなものだと思ってもらえるとわかりやすいかもしれません。

――モジュールですか?

石井龍:例えばクライアントから「こういう画面がほしい」という具体的な要望がきた時に、従来の固定したスタジオ制作の場合、それに対応できるかどうかはスタジオが抱えるクリエイターのリソース状況次第という側面が大きい。しかし僕らの場合、その要望をプロデューサーが実現するために、チーム軸とメンバー軸との2軸による編成をすることで柔軟な対応によって案件にマッチしたスケジュールやスキルセットを用意することができるんです。仮に「FLAT STUDIOの作風そのもの」を求める案件が少ない時でも、メンバー同士がモジュールの組み合わせを工夫することで、仕事の幅を広げることが可能になります。

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――制作期間やチームの違う案件が複数同時並行する際、スケジュール管理方法がネックになるかと思いますが、どのような施策を取り入れていますか?

石井龍:NotionやSlackを初期から導入して、各クリエイターから「生産数」や「達成率」の報告が毎朝行われるような仕組みになっています。それらの情報がリアルタイムにアーカイブされて、今それぞれの案件がどんな進捗状況なのか、メンバー全員が一望できる。組織作りの初期段階からそうした仕組みを徹底したおかげで、工数管理においても今ではクリエイターが自走する形で現場を運営できるようになりました。また、複数の案件を可視化することで、手が空いている人員を別のチームに割くようなモジュールの調整もスムーズに行えるようになっています。