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インタビュー

プロデューサーの喜びも、すべては「制作進行」から続いている ボンズフィルム竹本順仁インタビュー

2025.10.31

プロデューサーの喜びも、すべては「制作進行」から続いている ボンズフィルム竹本順仁インタビュー
竹本順仁

竹本順仁

1989年生まれ。2012年にボンズ入社後、制作進行として『エウレカセブンAO』、『テンカイナイト』、『棺姫のチャイカ』などに参加。2015年放送の『SHOW BY ROCK!!』から制作デスクとなり、『文豪ストレイドッグス』第1~3期、『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』、『十日市場CM』、『ジョゼと虎と魚たち』、『SK∞ エスケーエイト』に携わる。2022年制作の『文豪ストレイドッグス』第4期でアニメーションプロデュ―サーを務め、2023年制作の『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』、『SK∞ エスケーエイト EXTRA PART』からはプロデュ―サーを担当。現在『黄泉のツガイ』を制作中。

アニメ制作会社・ボンズと言えば、数々の骨太なオリジナル作品だけではなく、原作の魅力を最大限に表現するアニメ化によって唯一無二の存在として国内外に知られる存在だ。

その現場は、どのような理念の元、アニメ制作を続けてきているのか。現在、特にボンズフィルムが採用に力を入れている「制作進行」について掘り下げていくことで、その現場がどのような考えのもとに運営されているのかが見えてきた。

制作進行からキャリアをスタートさせ、現在はボンズフィルムのプロデューサーである竹本順仁氏が語る、マネジメント哲学。

取材・執筆:フガクラ 撮影:小野奈那子 編集:押剣山

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営業が苦手な僕でも……「制作進行」という職の奥深さ

――制作進行からキャリアを重ねてプロデューサーとして活躍されておられる竹本さんのお立場から、ボンズにおける制作進行について伺っていきたいと思っています。そもそも制作進行の仕事とは、どのようなものでしょうか?

竹本順仁:ひとつの担当話数を持って、その話数に参加する各工程の作業者に仕事を依頼する。そして素材が上がってきたら次の工程に回すというのを繰り返し、映像作品としての納品までもっていく。納品まで円滑に制作業務を進めるために、各作業者のスケジュールと作業量を管理・調整する、というのが主な仕事になります。

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――具体的な作業の流れと各セクションについても教えてもらえますか?

竹本順仁:おおまかに説明すると、まず作品内容の企画を立て、まとまったら脚本とデザイン・設定作業を行います。次に脚本から絵コンテが描かれて、絵コンテと設定がそろって準備ができたら、原画作業に入ります。そのあと、動画、仕上げ、背景、撮影、編集などの工程を経て、映像を完成させていきます。制作進行が関わるのは、主に原画作業以降ですね。3DCGは作品ごとに使われ方が違い、車や群衆など手描きで表現するのが難しい部分を補うなどの補助的な使い方から、メカやロボットを丸ごとモデリングする、作品の主役級の使い方まで幅広い使用用途があります。

――中でも、制作進行としてポイントになる業務はありますか?

竹本順仁:ひとつは「声かけ」です。担当話数に参加いただくアニメーターの方に声をかけて集めることを指します。「原画マンとしてこの作品のこの話数に入っていただけますか?」というお声がけをしていく。営業職的な仕事になります。

近年は、アニメーターの確保が難しくなっています。声かけは昔よりも難易度が上がっているため、ここがまずは制作進行業務の肝になります。

――アニメーターさんの確保が難しくなったのは、どういう理由からでしょうか。

竹本順仁:アニメの制作本数の増加と、作品密度の濃さ、要因としてはそのふたつだと思っています。近年映像配信が普及したこともあって、アニメ作品の制作本数が増え続けています。そして、劇場版はもちろんテレビシリーズであっても物語の内容や演出が複雑になって、作画密度も濃くなっています。例えば、外連味溢れるアクションを求める視聴者が増えてきたため、制作会社としてそうしたニーズに応えていくと、カットの内容が複雑になり1人のアニメーターがこなせるカット数が減ってしまう。ひとつの話数を制作するのに、より多くのアニメーターが必要になってしまう、という状況になります。

また、業界内ではアニメーターの社員化が進んでいます。以前は仕事をお願いできた方も今は他社で社員になられている、というケースも多いです。フリーランスの方もいわゆる「拘束」と呼ばれる独占契約を他社とされていたり、「半拘束(独占ではないやや緩やかな優先作業契約)」の方でもすでに複数の作品を並行して作業されていたりすると、思うように仕事を発注できなくなります。

――そんな中で、声かけにはどんなスキルが必要なんでしょうか?

竹本順仁:一番必要なのはコミュニケーションスキルなのかなと。私としては、制作進行という仕事は本質的には営業職で、人と接すること自体が仕事だと思っています。目当てのアニメーターの方にお話しをして、いかにこの作品のこの話数のこのパートをやりたいと思っていただけるか。それこそが制作進行の腕の見せどころであり、やりがいでもある。

……えっと、あとはっきり言って、私は声かけが苦手な方だったんですよ。

――え、そうなんですか……!

竹本順仁:あとで詳しくお話ししますが、自分は制作進行におけるもうひとつのポイントである「企画職」的な部分にやりがいを感じる方でした。でも制作進行の中には逆に声かけが楽しい、という人もいたりして。制作進行にはいろんな作業があるので、すべての業務が得意ではなくても、続けていれば自分が楽しめる部分や得意な領域が見つけられる仕事だと思います。

――「声かけ」のほかに、ポイントとなる業務はありますか?

竹本順仁:アニメーターに、原画などの素材をスケジュール通りに上げてもらえるように、作業状況の確認連絡をする、いわゆる「追っかけ」と呼ばれる仕事があります。「追っかけ」は、おそらくどの会社の制作進行の方も苦労されていると思います。アニメーターの皆さんはさまざまな仕事を抱えているので、なかなか上がりをいただけない場合も多いので……。 特に難しいのはフリーランスの方ですね。作品を複数並行作業されていたり、他社の都合も入ってきたりしてしまう。そうした方から上がりをもらうのは、今も昔も制作進行にとって最も大変な仕事だと思います。

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「エウレカセブンAO」

鉄則は、一人ひとりに向き合うこと

――アニメーターの方とはどのような形でのやりとりが多いのでしょうか?

竹本順仁:皆さん作業されている場所もそれぞれ異なり、社員かフリーランスかでも違いがあります。社員の方は同じビルのスタジオに入っていますが、フリーランスの方の場合は、ボンズフィルムで独占契約していてもご自宅で作業される方もいます。人によっては他社のスタジオに入って作業をする方もいる。

私の制作進行時代は、直接電話することが多かったのですが、最近やり取りの方法も変わってきています。今だと電話よりもLINEやメール、SNSのDMなどを希望される方が多いので、直接お話しできない難しさもあります。

対面や電話で話す場合、声色のニュアンスから相手の状況を推測したり、逆にこちらの熱意や感情をある程度伝えることができました。どれぐらいこちらが切羽詰まっているのか、逆に先方は実際どれぐらい忙しいのか。文面だけだとそれが伝わりづらい。私が制作進行だったのはもう10年も前ですが、その時とも違うスキルが求められるようになっているのを感じますね。

――竹本さんが制作進行時代に会得した「追っかけ」のコツはありますか?

竹本順仁:コツですか? あれば私が知りたいくらいです(笑)。ただ、「追っかけ」する相手の一人ひとりに合わせて、コミュニケーションの取り方を意識的に変えているとは思います。同じ原画マンでも、仕事に対する考え方やスタンスはそれぞれ違いますから。

私の場合は、特に初めて自身の担当話数に参加してもらうアニメーターの方には、できるだけ時間をかけてお話をしていました。その方が仕事に対してどういう考えを持っているのかをまず理解する。「相手を知る」ということが必要だと考えていたからです。相手を理解した上で、その方へのアプローチや言葉のかけ方を探っていました。お仕事をする方全員に一様に同じアプローチをしたら、印象が悪くなってしまったり、怒らせてしまったりすることもあり得る。やはりそれぞれの方のパーソナルな部分もちゃんと理解した上で対話をすることが重要だと思います。