
営業職でもあり企画職でもある制作進行の魅力
――竹本さんが感じた、制作進行のやりがいはどんなところにありましたか?
竹本順仁:制作進行という仕事のどこに楽しさを感じるかは人それぞれなんですよね。私の場合は、自分が関わった作品への視聴者の反応が嬉しくて、仕事に対するモチベーションに繋がっていったと思います。担当話数が世間でどう評価されるのか。「なるほど、視聴者はこのシーンをこんなふうに見ているのか」みたいな発見がありますし、マイナスな意見がだったとしても、そこから学ぶこともたくさんあります。
――制作進行の中で、好きだった業務はありますか?
竹本順仁:先ほど、制作進行は本質的には「営業職」で、私は必ずしも営業が得意ではなかったとお話ししました。私は毎年新入社員に対して、「制作進行は営業職である」と話すと同時に「制作進行は話数単位のプロデュ―サーである」という話もするようにしています。これは制作進行が自身の担当話数をプロデュースするということで、制作進行には「企画職」としての側面もあるという話なのです。
制作進行は、自身の担当話数がその作品の中でどのような位置の話数なのか(主人公の壮絶な過去が垣間見える感情のこもった演技を必要とする話数なのか、あるいは外連味のあるアクションで視聴者を魅了しなければならない超絶アクション話数なのか……など)を理解し、その話数を、そのシーンを、そのカットを制作するのに必要なアニメーターが誰なのかを考えて配置する必要があります。
制作進行がアニメーターに作業発注をするにあたって、それぞれの作業者の担当カットを一覧にまとめたものを「割り振り表」というのですが、私はこの「割り振り表」を作るのが好きでした。時には、実際には他社作品でお忙しく、手伝って貰えるわけがない方の名前を割り振り表に書いてデスクに突っ込まれたりしていましたが、自身の担当話数を分析する能力は養われたと思います。私は制作進行という仕事の「企画職」的な側面に楽しみを見出していたのだと思います。
――竹本さんご自身の経験則として、制作進行が経験を積むと、具体的にどのような変化がありますか?
竹本順仁:一番大きな変化は、やはりさまざまな経験を積むことで、この後発生し得る業務上の問題などを予見して前もって動くことができるようになるところだと思います。問題に直面した時にいかに早く対応できるか、また可能なら問題が発生する前に手を打っておけるかで、制作進行業務自体のひいてはその制作進行の担当話数のクオリティ向上に確実につながっていきます。
――竹本さんが、この人は優秀な制作進行だなと思うポイントはありますか?
竹本順仁:制作スケジュールの管理とクオリティ希求のバランス感覚が優れていることですかね。
まずはスケジュールの管理。音響・納品作業の日程から逆算して制作を進めることが重要です。制作工程の後半、例えば動画や仕上げにまできちんと作業スケジュールを確保して進行することで、安定・継続して納品することができます。
作業スケジュールをしっかりとおさえつつ、作品自体のクオリティを希求することも制作進行には必要です。私のスタジオでも、制作進行から「自分の話数のこのカットが、この作品にとって非常に重要だと思うので、丁寧に作りたい。ここだけ他のカットよりももう少し作業スケジュールを使わせてほしい」というような相談を受けることがあります。自身の担当話数を分析した上での、クオリティに対する前向きな提案だと思うので基本的には受け入れることが多いのですが、優秀な制作進行はそのような姿勢を常に持っていると思います。

「黄泉のツガイ」
制作進行のその先にある、プロデューサーという職業
――ボンズで制作進行として入られる方にはどのような進路やキャリアアップがありますか?
竹本順仁:制作進行がキャリアアップの先に見据えているのは、演出・監督かプロデュ―サーが多いと思います。演出志望だと、制作進行から設定制作を経て演出・監督を目指すルート、プロデューサー志望だと制作進行から制作デスクを経て、プロデュ―サーを目指すルートが一般的かと思います。
――プロデューサーである竹本さんが、制作進行を経験して良かったこと、今の仕事に活きていることはありますか?
竹本順仁:結局、プロデュ―サーになった私が今一緒に仕事をしているスタッフは、制作進行時代に担当話数に入っていて助けてもらった方が多いのです。制作進行時代に作った人脈は、その後のキャリアでも確実に生きてくると思います。
また、デスク、プロデューサーになると、制作進行で培ったものを土台に、制作現場を俯瞰で見る必要が出てきます。実際に現場で稼働しているスタッフがどのような考え方や立場で仕事に臨んでいるのかは、現場に一番近い距離にいる制作進行を経験しないとわからないことだと思います。
デスク、そしてプロデューサーになると、作品を俯瞰で捉える立場になるので、制作進行で培った視点を土台に、アニメ制作の世界がもっと広がって見えてきます。音響会社の方や、他社のデスクやプロデューサーの方とも交流が生まれる。仕事の経験や繋がりが大きな財産になっていますし、プロデューサー業務に直結しているので、制作進行やデスクの経験をして本当に良かったと思います。
――制作進行があって、今のお仕事があるのですね。では、ボンズフィルムにおけるプロデューサー職はどのようなお仕事になるのかも伺えますでしょうか?
竹本順仁:プロデューサーは、作品の制作指揮を行う仕事です。作品の企画、制作現場の立ち上げ、スタッフ集めと管理、納品までスケジュール調整など、基本的には作品制作の最初から最後まで関わることになる管理職です。
――ボンズフィルムのプロデューサーならではの特色はありますか?
竹本順仁:企画部門が制作部門と分かれている会社もあるのですが、ボンズフィルムではプロデューサー自身が企画を出せるところが大きな特色だと思います。特に元来オリジナル作品を作っていこうという思いが強い会社なので、プロデューサーが企画に関しての意見交換を行う会議も定期的にあったりします。これから先、私自身もオリジナル作品を企画・制作してみたいと考えています。
――プロデューサーのやりがいや魅力はどこにあると思われますか?
竹本順仁:プロデューサー職に就いてまだ2年目なのですが、個人的には、作品の隅々まで把握できている、という感覚がとても楽しいです。
視聴者の反応自体は制作進行でも知ることができますが、プロデューサーになるとプロモーションや版権物にも関わることになるので、作品の放送前の段階から世間の反応を感じることができるのが、プロデューサーという仕事の大きな魅力の一つです。

残れている人間には「目標」がある
――制作進行として続けていける方の資質というのはあると思いますか?
竹本順仁:やはり制作進行という仕事自体に楽しみを見いだせる人が強いかなと思います。何がモチベーションになるかは人それぞれですが、「声かけ」を楽しめる天性の営業職タイプもいれば、私のように企画的な側面が楽しいというタイプもいて。いずれにしろどこかにやりがいを見出さないと難しいのかもしれません。
アニメが好きというのは必ずしも制作進行に必要な資質というわけではなく、入社するまで一切アニメを観ていなかったが、制作進行という仕事をしているうちに職種自体に興味を持つようになり楽しくなってきた、という人がずっと残ったりすることもあります。
私が制作進行として入社してまず言われて覚えているのは、「とりあえず続けてみて」という言葉です。最初はその言葉の意味がよくわからなかったのですが、今振り返って見ると、本当に重要なことだなと。ボンズフィルムでデスクやプロデューサーになっているのはどういうタイプの人だろうと考えてみたのですが、みんな性格もバラバラですし、制作の仕事というのは非常に自由度が高いので、仕事の仕方も千差万別で共通項が見つけられませんでした。ではなぜこの人たちが会社に残っているんだろうと考えたら、シンプルに「仕事を投げ出すことなく続けているから」だと思ったんです。
――残ることができているのがすでに資質だと?
竹本順仁:そうですね。そして残るために一番重要なのは、目標を見据えて仕事をすることだと思います。 例えば入社何年後にはプロデューサー・演出になる、という目標を持っている人。私も制作進行のやりがいとは別に、プロデューサーになりたいという目標があったので実際に今までこの仕事を続けることができました。キャリアだけではなく、「こういう作品を作りたい」「自分の担当話数をこのように視聴者に届けたい」といった、何かしら目指すものがある人は強い。目標があると、そのために自分が今何をすれば良いのかを考えて行動することができる。それがやりがいを持って仕事を続けられるという、最良の状態に繋がっていくのではないでしょうか。




