Creative hub/アニメスタジオの体制が、 表現を狭める言い訳になってはならない ──業界未経験で設立されたFLAT STUDIOだからこその勝機

インタビュー

アニメスタジオの体制が、
表現を狭める言い訳になってはならない
──業界未経験で設立されたFLAT STUDIOだからこその勝機

2026.02.05

アニメスタジオの体制が、<br> 表現を狭める言い訳になってはならない<br> ──業界未経験で設立されたFLAT STUDIOだからこその勝機

flatstudio_image_10.jpg

作家がアニメを選んだから──FLAT STUDIO流、作家主義の貫き方

――CANTERAのような育成プロジェクトや分散型チームというアイデアをはじめ、今までのアニメーション業界の慣例ではあまり類を見ない会社作りが印象的です。業界未経験のメンバーも多いとのことですが、発起人である石井さんご自身はどのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?

石井龍:僕自身も、アニメーション業界とは無関係なキャリアからスタートしています。新卒で株式会社THINKRの前身であるANSWRに編集者として入社した後、いくつかのキャリアパスを重ね、THINKRでloundrawのマネジメントを担当することになりました。もともとloundrawは、大学在学中から住野よる氏の『君の膵臓をたべたい』カバーイラストの担当や自身の画集「Hello,light. ~loundraw art works~」を発売するなど、プロのイラストレーターとして活動していて。そんな中、大学の卒業制作である『夢が覚めるまで』というオリジナルアニメを制作したのが、loundrawにとっても僕にとっても大きな転機になりました。

――監督・脚本・構成・キャラクターデザイン・原画・動画・背景・撮影など、制作にかかわるセクションをすべてloundrawさんが単独で作り上げた作品ですよね。自主制作ながら、雨宮天さんや下野紘さんといったプロの声優が参加するなど、その本格的な作りが当時大きな話題になっていました。

石井龍:『夢が覚めるまで』を通して、loundrawが作るアニメーション映像の可能性が多くの方に周知されたと感じました。ただ、彼がそのまま外部のアニメスタジオと手を組んだとして、loundrawの頭にあるイメージを100%具現化できるかどうかは予測できない。そこで「いちから、自分たちの手でアニメスタジオを作ってみてはどうか」というアイデアを彼と話し合ったことが始まりで。それから約2年後、FLAT STUDIOが生まれました。「FLAT STUDIO」という名前も、『夢が覚めるまで』に登場する架空のアニメーションスタジオの名前が元になっています。「イラストレーターによるアニメーション」というコンセプトも、発起人であるlaundrawがイラストレーターだったこともあり、彼が目指すフィルム感、チームの在り方など、一連の動きをわかりやすく伝えるために掲げました。まずはloundrawという人ありきで、後からスタジオを作り、自分もアニメプロデューサーとして仕事を始めるようになった、という順番ですね。

flatstudio_image_11.png

「天体観測」

――もともとはloundrawさんの持つアニメーションのイメージを具現化するためにできたスタジオだったと。そこから育成組織であるCANTERAの立ち上げなど、社内で働くクリエイターのキャリアに強くコミットした組織作りをされています。石井さんがスタジオの方針としてクリエイター育成を重要視するようになったのはなぜでしょうか?

石井龍:出発点で言うと、「loundrawがアニメ業界を選んだから」ですね。ただ、loundrawも同じ意見ではありますが、彼のためだけのスタジオという意識ではなく、参加するメンバー一人ひとりが価値を感じる場所でないと意味がないです。loundrawに憧れて参加するメンバーももちろんいますが、僕らは作家を軸とした制作フローを構築しています。なので、その機能を魅力に思ってくれたり、単純に飽きやすいから「ここなら色々できそう」と感じてくれたり、というのが一緒に働く動機であってほしい。そのために、雇用条件や福利厚生を整えることだけが「参加したい」という理由になるのではなく、この仕事に価値を感じるような人が、この場所にいる意味を見出してくれるような機能を備えることを意識しています。個人作家のマネージャーなら、その人だけを見ればいい。ただ、アニメ制作を選ぶのであれば一定の規模を必要とするという命題からは逃れられません。なので、作家単体の才能だけでは成立せず、各セクションすべてが綿密なコミュニケーションをとれる強い組織が必要になってきます。

当時、外部制作パートナーとのやり取りのなかで、決定的に不信感が生じる出来事が起きました。それが再び起こるかもしれない。外部に都度発注をしているだけではクリエイティブを構造化することもできず、作品の質を担保する上で運の要素が増えてしまう。だからこそ、組織としての成長速度やコスト面のリスクを取ってでも参加メンバーを内製化して、自社でコントロールできる範囲でクオリティを担保できる仕組み作りを進めました。

僕らのスタジオは基本的に作家主義なんですよ。ですが、作家主義を貫くことは美しさがある反面、それを支えるメンバーの創作意欲やキャリアアップの機会を潰すリスクも生じます。そのような“作家主義”をどう実現していくのか考えた時に、制作スタッフをモジュール化することで解決できるのではないか、と考えました。モジュールを組み合わせることで、クオリティの担保はもちろんですが、監督というポジションの流動性を意図的に高めることで、案件ごとに監督と参加メンバーの役割りをスイッチすることができますし、抜きん出た才能と信頼感が求められる特別なプロジェクトにおいては、市場ニーズというスタジオ外の力学も働くので、それに選ばれるかどうかは僕やプロデューサーの意思でコントロールできるものでもなく、ある意味フェアです。

――コミュニティの広がりをスタジオ内に担保することで、結果的にクオリティの維持やアニメスタジオとしての持続可能性を高めることができるということでしょうか。

石井龍:そうですね。例えば会社から独立する人は「会社の形が固定化しているせいで、技術的には成長しているのにキャリアが進まない」と感じるケースがあります。独立自体を否定しているわけではありませんが、そうしたケースにおいては、その人のキャリアはゼロからやり直しになる場合もあるし、スタジオとしても育成してきた蓄積がなくなってしまう。これを解決したいと思った時に、「キャリアパスを長期的に設計できる組織」にする必要があると感じました。なので育ったら独立する以外に先がないという環境ではなく、育った人がさらに新しいコミュニティを作れる生態系モデルをスタジオ内に作りたいんです。

スタジオが、クリエイティブの選択肢を狭める理由になってはいけない

――FLAT STUDIOは、「オープンで多文化的な『コミュニティ』を目指しています。」という宣言をしています。これまでの話も踏まえると、アニメーション制作の現場における新しいコミュニティ作りやフレキシブルなスタジオ編成こそが、石井さんにとって命題のように見えます。

石井龍:そうですね。個人的に、大手スタジオはワークフローを共通規格化することで安定した制作体制を作り上げていると思います。分業化とも称されますが、クオリティの高い作品を作るためには、美術なら質の高い美術、作画ならクオリティの高い作画を追求する。フロー自体に変更は加えず、いわば「点の質を上げる」アプローチで、その点をいかに淀みなく並べるかが制作の役割だと受け止めています。ただ、僕らのようなスタジオは、そのような点に意識を向けるのではなく、点と点との組み合わせ、配置、関係性に自分たちらしさを持つことが重要だと思います。だからこそ、部門横断的な組織作りを試行錯誤してきました。

そもそも、自分自身がプロデューサーとして活動してきた中で、プロデューサーは「クリエイティブの中心ではない」と見なされることに違和感があって。プロデューサーはたしかにクリエイターではないけれど、クリエイティブな部分はある。一方でクリエイターと呼ばれていても、自分の作業に集中するだけではなく広い視野で全体を見ている人もいる。社会的なラベルを一旦置いて、「創造的かどうか」という軸で人を捉えるようになると、そもそもプロデューサー/クリエイターという区分自体が最適なものではないように思います。これも、「ONE IS ALL」ですね。

flatstudio_image_01.jpg

石井龍:loundraw自身も、イラストレーターという個人種目にルーツはありますが、アニメーション監督としてチームの中でもその能力を発揮しています。例えば、松野匡助はアニメーションプロデューサーでありながら、京セラによるオリジナルアニメ『今は将来に入りますか。』では演出・監督を務め、「京都アニものづくりアワード2024」のオリジナルコンテンツ部門で銀賞を獲得しました。逆に、クリエイターの工数管理や制度運用などの仕組みを設計している善養寺甫奎は、スタジオ設立当初からloundraw作品を支える美術監督です。FLAT STUDIO内では一般的な職種に紐づくイメージと実際の役割が逆転していることが多いのですが、本人の資質に基づいて役職を割り振ると、結果的にそうなってしまうことが多いです。

アニメ業界でも横断的な例がないわけではないと思うのですが、これをスタジオの方針として実際に運用するのは難しく試行錯誤しています。入社時点では自分の向き不向きが単純にわかっていないというのもありますし、そもそも職業イメージから離れたポジションをやるための意思表示をしていいのだという感覚がないようです。なので、「やってみたい」という意思や生態系をよくするアイデアを持っているなとわかったら、積極的に任せてみるなど、トライアンドエラーを繰り返しています。まだ完璧に浸透していると言いづらいですが、理念を全員に共有しているからこそ、可能になっていることだと思います。

――多様なコミュニケーションのインフラを整えることで、設立から10年未満かつ、メンバー数も50名に満たないアニメスタジオが、オリジナル作品や受託制作、さらにマネジメント事業と、複数の事業を同時に展開できているということですね。

石井龍:そうですね。今後もオリジナルアニメーション作品を作り続けていくということにも意欲的です。オリジナル作品が厳しいことは重々承知ではありますが、その文脈が途絶えつつあるのであれば、僕らはコミットしたいと思っています。ただ、そもそも、劇場版オリジナルアニメだけ、あるいはIPアニメだけしか作らない、という単一事業に絞るスタイルが自分たちと相性が良くなく、オリジナル作品のみを作り続けたいと考えているわけではありません。当然ですが、MANAA ANIMATIONが展開する受託制作事業にも、面白さややりがいを感じているんです。

――ありがとうございます。今後、FLAT STUDIOはどのようなアニメスタジオになることを目指していますか? 具体的なゴールなどがあれば教えてください。

石井龍:具体的なゴールは設定していないのですが、「常に多くの選択肢を持つ状態」を維持し続けることが目標ですね。それは事業としての選択肢を複数持つということはもちろんですが、自分を含め所属メンバーのキャリアパス、働き方、働く場所、大きく言えば生き方も。個人の意思が反映される機会や頻度、選択肢を増やしていきたいです。クリエイティブ面で言えば、スタジオが原因で選択肢を狭めることがないように、社内にどれだけ多彩なモジュールを作れるかが肝心だと思いますし、FLAT STUDIO内のアセットを使って、これまで以上にメンバーが自発的に個性豊かなチームやプロジェクトを作っていける状態にしたいですね。そのためには売り上げをすぐにスケールさせることだけを目的にするのではなく、必要な時に必要な形へ拡張できるように、選択肢を増やし続けるようにしたい。その結果として、FLAT STUDIOという生態系のレベルが上がっていく——そうした状態を目指しています。