
職人・大河原邦男が大事にする、仕事の鉄則
──大河原さんは著書で「見切りをつけたらすぐに諦めてしまう」とお話されています。そういった性格が、お仕事において役に立ったことはありますか?
大河原邦男:例えば一緒に『ガンダム』を作ったキャラクターデザイナーでアニメーターでもある安彦(良和)さんは、もう天才なわけです。メカニックデザイナーである私があれくらい絵を描けるかといったら、絶対無理。それでもやり続けて上手くなるというのもひとつの美学だけど、「生きやすいところに道を見出す」というのもひとつの選択だと思うんです。どっちが良いかというより、私の場合は結果論として、今現在が一番楽しく仕事をできる状況である、というだけですね。初めから絶対のポリシーを持って仕事をしていたわけではなくて、たまたま現在があるというだけで、あとは本当に全部人との巡り合わせなんです。
──人ですか。
大河原邦男:そう。タツノコに入って中村さんに出会わなかったら私の今はないし、そこからサンライズに繋がらなかったら『ガンダム』もやってないですから。人を介して仕事がやってくるし、そうした人や機会にちゃんと向き合っていれば仕事の方からやってくるようになる。本当に私は人に恵まれていると思います。……『ガンダム』の後、30代の時は同時に4本アニメの仕事をやっていて、毎日夜中までずっと仕事をしていましたが、その頃にスキューバダイビングに目覚めてしまったんです。海の中って本当に別世界で、たびたび潜りにいっているうちにだんだん仕事がなくなって、一時期はOVAの『機甲猟兵メロウリンク』だけになってしまったんです。
──『ボトムズ』の番外編的な作品ですね。
大河原邦男:さすがにこれはマズいと慌てて、方々に「仕事ないですか」と電話をして、そこから『魔動王グランゾート』や『勇者エクスカイザー』の仕事をいただきました。特に勇者シリーズは毎年新作があるので、おかげで生活が安定するようになって。そういう営業の仕方でもなんとかなったのは、やっぱり人に恵まれていたからだと思っています。あと大事なのは、納期を守ることですね。私は納期は絶対に守るということを徹底しています。
──昔からおっしゃられていますよね。「これはどうしても無理だろう」というスケジュールの仕事を振られた時、大河原さんならどうしますか。
大河原邦男:う〜ん……それでも私なら納期までになんとかしちゃいますね。そもそも働き方改革のおかげや放送スケジュールの都合で、今のアニメってスケジュールにすごく余裕がある。最近は1クールやったら終わってしまいますが、昔は最低4クール、人気が出れば8クールでも放送するのが当たり前でしたから。その時の経験から、毎週ぎっちりスケジュールが詰まっている状態で1話ごとにアイデアを出すことに慣れてしまっていますし、そもそも手が早くないと仕事にならない。だから私は今でも、打ち合わせの最中に大体アイデアを固めてしまうんです。家に帰ってそれをすぐ描き出して、納期まで時間があればそのまま寝かせておきながら頭の片隅には置いておく。その間にまた別の仕事を始めながら、締め切りが近くなったらフィニッシュして納品してしまう。これを繰り返しているから、同時進行でも納期を守れるんです。
──「ああしよう、こうしよう」と悩んでいる時間がほとんどないんですね。
大河原邦男:私の仕事は、アニメの制作手順の中でも上流の方なんです。メカのデザインが決まらないと、作画に入ることができません。だから絶対に納期を破るわけにはいかない。このあたりの感覚を養うことができたのは、ひとつの建物の中にアニメ制作の上流から下流までが全部収まっている、タツノコという会社で鍛えられたことが大きいですね。仕事に追われている方が、「生きてる」という感じもして張り合いがあります。

──そういったお仕事のスタンスに関して、大河原さんは繰り返し「自分は"アーティスト"ではなく"職人"である」と発信していらっしゃいますが、それらの違いはどこにあるのでしょうか?
大河原邦男:アーティストは、自分の中から言葉や作品が出てくる人ですよね。職人は外からいただいた仕事をやっていく人だと思います。ただ、職人にしても言われたことを言われたままやるのではなくて、オファーしてくれた人をちょっと喜ばせるような、くすぐるようなプラスアルファを少しだけ入れられるのが良い職人ではないでしょうか。オファーしてくれた人が思っていた以上のものを出せると、次も仕事が来るんです。
──そういった立ち位置でお仕事をする際に、大事にしてきたことはなんでしょうか?
大河原邦男:70年代から仕事をしてきましたが、その当時はアニメを見るのはもっぱら子どもたちでした。彼らは感受性がすごく強いので、気持ち悪いとか、危険というものはなるべくデザインに入れ込まないようにしてきました。この点には非常に気を使ってきましたね。
もうひとつは、「アニメーターにちゃんと形を伝える」ということ。アニメのメカデザインは、作画をするアニメーターに「これはこういう形で、ここがこう動きます」という点を伝えるために描くものです。だから、どんなに格好いいメカを描けても、アニメとして動かせるように関わっている人へ情報が伝わらなくては意味がない。この点だけは見失わないように気をつけてきました。

──「最終的な顧客のことを考えて仕事をする」と「仕事の当初の目的を見失わない」というのが、大河原さんのお仕事を貫く軸ということですね。では最後に、もしも今の時代にもう一度メカデザイナーのキャリアを歩み始めるとしたら、何から始めますか?
大河原邦男:儲からないから、今からメカデザイナーにはならないかな(笑)。真面目な話、今はメカが登場するアニメの本数に対して、メカをデザインしたい人の数がずっと多いんです。だから、いきなり仕事にしようとしてもなかなか厳しいところがあると思います。ただ、現代は作品を投稿して見せることのできるプラットフォームがたくさんありますから、本当にやりたいという人はまずはそういうところで発信できるまでのスキルを身につけるところから始めると良いのではないでしょうか。今なら、モデリングを学んでいくらでも自分のデザインを動かせますからね。
──確かに、作品本数に対してメカが描ける人が圧倒的に少なかった時代に比べると、メカデザイナーとしてデビューするのは大変かも知れませんね。では今、大河原さんが若かったとして、メカデザイナー以外に目指したい仕事はありますか?
大河原邦男:そうですね……今の仕事の他に何がしたいかというと特にないし、それがなかったから今があるんですよね。先ほども言ったように人に恵まれたから今がありますし、幸運なことに仕事で悩んだこともないし、仕事がくれば今でもワクワクするんです。苦しんでデザインしたことなんて、一度もありませんから。本当に上手くニッチにはまったから、今までやってこれた。自分はつくづく運と巡り合わせが良かったんだな、と思っています。





