Creative hub/アニメの礎となる「制作進行」という職能 ボンズ入社4年目の同期制作進行の語る大座談会

インタビュー

アニメの礎となる「制作進行」という職能
ボンズ入社4年目の同期制作進行の語る大座談会

2025.10.29

アニメの礎となる「制作進行」という職能<br> ボンズ入社4年目の同期制作進行の語る大座談会

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制作進行の一挙手一投足が、アニメーションというクリエイティブの質を左右する

――制作はさまざまなセクションのスタッフと関わりますが、特にどのセクションが多いのでしょうか?

岡野:制作進行が一番関わるのは、やはり演出でしょうか。素材入れや素材出し、各セクションからのチェックが来たら必ず演出に一度目を通してもらいます。1日のうちに何度もやり取りをしますね。

久米:演出に対して適切なコミュニケーションベースで進められるかどうかで、スケジュールや作品のクオリティも変わってくると思います。例えば、現在一緒に作業している演出は自分と年齢が近いので、距離感が近くても問題ないんですよ。だから「この素材はこういう事故が起きそうだよね」と事前相談や素材回しの提案をすることも多くて。ただ、時には大ベテランの気難しい演出と組むこともある。そういう方に向かって若輩者の自分が相談や提案をすると、演出を信用しない失礼な奴だ! と受け取られかねないんです。進行は自分で画面を作れない分、コミュニケーションを駆使するしかないので、相手に合わせた対話を心がけることが大事だな、と。

藤本:ボンズには、『カウボーイビバップ』はじめ、自分が制作になる前から、いちアニメファンとして観ていた名作の演出や監督がたくさんいらっしゃいますからね。そういう方にも、ビビらずに接することが大事なのかなと思います。

以前、とある作品でラッシュチェックまで終わった段階で、 アニメーターが「自分の描いたシーンの動きが気になるので、直させてほしい」と申し出てきたことがあって。普通、ラッシュ段階でリテイクが出なかったカットは完成として扱うのですが、このカットはどうしてもこだわりたいと。スケジュールとの兼ね合いも考えた上で、演出家に事情を相談して、どうしてもやらせてくれないかと頼み込んだんです。その結果、「修正したところでどうなるかはわからないが、その姿勢は偉いからやってみよう」と応えてくれて。結果、修正した画面は完成度が明らかに上がっていました。仕上げまで終わったカットの修正というのは、全セクションが関わるので、容易くできることではないんです。それでもスケジュールと両立しながら、クリエイターの「もっと作品を良くしたい」という気持ちに応えられる瞬間には、制作ならではのやりがいを感じますね。

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「COWBOY BEBOP 天国の扉」

――各セクション間の関係性が上手く築けるかどうかが、映像のクオリティにも反映されていく。まさに制作進行の手腕が試される部分ですね。

岡野:私は、「このシーンはぜひこの人にお願いしたい」と考えていたアニメーターさんに、実際にそのパートを担当していただいた時に、制作はクリエイティブにも関わる仕事なんだ!と感じました。原画上がりがとても綺麗で、このカットは絶対に大事にしたいと思って。その後の動画作業も丁寧に進めたかったので、社内の動画検査さんに相談したら、「このカット、自分がやるよ」と引き受けてくださって。結果として、原画も動画もすごくクオリティの高い映像になったし、実際にSNSでも、そのシーンの反響が大きかったです。いち制作の判断でも、クオリティが変わることがあると思いました。やっぱり私たちの仕事のゴールは視聴者が見てくれることなので、そこで良い反応が返ってきた時は本当に嬉しいですね。

久米:自分の采配ひとつでフィルムの印象が変わるというのは、本当に実感しますね。 もちろん全部が自分の力というわけではないですが、やり方や工夫次第で作品の出来が変わることはあると思います。僕はマッドハウスにいらっしゃる福士(裕一郎)プロデューサーという方の割り振りを参考にすることが多くて。特にアニメ『葬送のフリーレン』の「魔法の高み」という回は、本当に素晴らしいんです。その映像をiPadで流しながら、「自分の担当回でも、こういう構成でいきたいな」とか考えていました。 アニメーターはアニメの“役者”でもあるので、制作にとっての割り振りはキャスティングに近い部分もあって。自分の狙い通りにハマると本当に楽しいし、考え抜いた分だけ映像に反映される気がします。

藤本:僕は制作進行のどんな単純作業であっても、結果的にクリエイティブに関わっていると感じます。例えば、デジタルで作業をするスタッフさんへの素材渡しひとつとっても、そのデータを作る段階で「どうしたらこの人が作業しやすいか」「こういう形で渡した方がよりスムーズか」という細かい工夫を考える。そういう積み重ねが後々のスケジュールに影響を及ぼすし、それが結果的にクオリティの向上に繋がるのかな、と思います。

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入社4年目の3人が明かす、ボンズの赤裸々な労働環境

――そもそも、皆さんがアニメの制作進行を志したきっかけは何だったのでしょうか? また、ボンズに入社を決めた理由も教えてください。

岡野:私はいわゆるアニオタ気質というか、昔からアニメが好きな人間でした。それと、大学時代に舞台制作サークルに所属した時、裏方でいろいろなセクションの人と関わりながら一つの作品を作っていく過程が、すごく楽しくて。自分が好きなアニメと、演劇サークルで感じたやりがいを両立できる働き方って何だろう? と思った時に、制作進行に興味を持ちました。ボンズには、元々制作しているアニメが好きだったことと、オリジナルアニメが強い点に惹かれました。

久米:僕も大学時代に演劇をやっていたんですが、自分自身が作品の一部だと感じるのがあまり好きではなくて……。どうしても「自分が媒体にならなければいけない」という部分で折り合いがつかなかった時に、ボンズの作品を見て、原作に寄り添う作り方に惹かれたんです。ボンズの画面だからこう、というよりも、「この原作の魅力をどう引き出すか」を第一に考えているように見えて。アニメ制作会社の中にはひと目でどこが作っているかわかる個性的なところもありますが、ボンズは原作ごとにアプローチを変えている。そこがすごく良い作り方だなと共感して、志望しました。

藤本:僕は、そもそも就活自体をあまり頑張っていなかったんですよね。秋採用の職種を探していた時、なんとなくボンズのサイトを見たら制作進行の募集ページを見つけて。アニメ自体は元々好きだったので制作がどんな仕事なのかは知っていて、試しに履歴書を送ってみたのがきっかけでした。試験内容を詳しく話すのはマズいのですが、自己表現を求められるような変な質問が多くて。ますます面白い会社だなと思って、ボンズに入社しようと決めました。

――入社後のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)やサポート体制はいかがでしたか?

岡野:私がDスタジオに入社した当時は、アシスタントプロデューサーの方と一緒にアニメ1話分を担当して、制作としての基本知識を教えてもらいました。一昨年か去年くらいから、先輩制作がついて研修を行う体制が確立されています。

藤本:新人主体で最初から話数を1本持つのか、まずは先輩の担当話数を手伝うのかは、時期によりますが、現在ではどのスタジオも先輩制作のサポート体制が敷かれています。どちらにしろ入社早々、1人で制作業務をやらせるようなことはありません。

――入社前と入社後で、制作進行の業務について最もギャップを感じたことはありますか?

岡野:うーん……私はあまりないかもしれないです。元々、ひとつの目標に向かっていろいろなセクションの人とものづくりをしたかったので。強いて言えば、実際の現場では、想定より関係者の数が多かったくらいかな。入社前のイメージと大きなズレは感じなかったですね。もちろん、作品のために考えるべきこと、折り合いをつけなければいけないことは山積みですが、それをなんとかするのが制作の仕事だと思うので。

久米:僕も業務に関しては、ギャップは感じなかったですね。むしろワークライフバランスでは、良いギャップがあった。アニメ業界というと、土日も働くのがデフォルト……というイメージを持っていたんですが、ボンズでは制作スケジュールが大きく滞ってさえいなければ、しっかり土日も休めることを知って驚きました。

――ボンズは制作やアニメーターに対して、正社員登用や給与・福利厚生など、待遇が手厚い印象です。

藤本:労務関係がとてもしっかりしてますね。むしろしっかりしすぎて、僕は怒られることすらありますが(苦笑)。休日に出勤することもほぼないですし。一応、土曜出勤も許されてはいるんですが、休日に働いた分は残業になる。労働時間の管理も制作一人ひとりが気を付けなさい、という方針のおかげでメリハリのある生活ができるのは良いことだと思います。

久米:制作進行については、給与面に関しても一般企業の新卒と同等の生活が、初年度からしっかり送れると思います。年に2回ボーナスが出るんですが、それがとても助かるし、他社さんでもあまり聞かないです。

岡野:オフィスが0時には完全に施錠されるのがルールとして徹底されていますし、月ごとの残業可能時間がきっちり決まっているので、昔の制作進行のイメージにあるような「毎日徹夜しながら、会社に泊まり込みで仕事する」みたいなことはそもそもできないです。

会社は閉まるけど外で仕事してるんでしょ? と思う人もいるかもしれませんが、ボンズは深夜の回収に関しては提携してる運送会社さんに完全に委託してますから。