
OVA「SK∞ エスケーエイト EXTRA PART」
共同制作を積み上げるアニメーション 制作も、決して独りではない
――もしそうした業務につまずいてしまいそうな場合、社内ではどのようにフォローされているのですか?
竹本順仁:制作進行で一番多い悩みは、やはり「追っかけ」に関するものだと思います。「ある人の原画が上がらないので、後の工程の作業期間がなくなってしまう」とか。リカバリー体制で言うと、まずは制作進行からその様な報告を上司にしやすい環境を作るようにしています。そしてその情報をスタジオ内で共有し、もし人手が足りないということであれば、比較的手の空いている話数の制作進行をフォローにつけるとか、プロデュ―サーとデスク主導で他のアニメーターに作業をお願いするとか、そうした動きに繋げていきます。
たまに人を補充するだけでは対応できない深刻なケースもあって。その時はスケジュール自体を調整することになります。さらにスケジュール調整だけでも対応が難しい場合は、他のスタジオから人手を補充してもらうなど、会社を上げてのフォローが必要になる場合もあります。
制作進行は自身の担当話数で問題が起こると、自分を責めてしまったり、自分の力だけで何とかしようと悩んで抱えてしまうことも多いので、日頃から「なんでも相談してね」と伝えています。フォローするにしてもまず状況報告をもらわないと動けないので。ボンズフィルムの場合、プロデューサーもデスクも同じビルの同じフロアにいることが多いので、何かあった時はすぐ相談できる環境を物理的にも実現できているかと思います。
同時に、デスクやプロデューサーは制作状況を常に確認し、危うい部分があったら事前にテコ入れをして危機を未然に防ぐということもやっています。特に新人の制作進行は、各工程をどのようなスケジュール感で進めれば納品まで持っていけるのか、その感覚自体がわからない。私もそうでしたが、作業手順を一通り覚えることだけで精一杯になってしまうことも多いので、「1ヶ月後に納品がある」と言われても、現在の制作状況だと提示された日時に納品するのがどれだけ大変なのか、その危機感がなかなか湧いてこない。なので制作デスクやプロデュ―サー、先輩制作のフォローが必須になります。
――縦や横の連携が鍵になってくるのですね。他に、プロデューサーの立場からは制作進行にどのような話をするのでしょうか?
竹本順仁:「担当話数の進行業務の全責任を、制作進行1人が負わなければいけないわけじゃないよ」という話をすることがあります。もちろんそれぞれの制作進行には責任を持って業務に臨んでほしいですが、アニメの制作現場というのは各制作工程が完全分業制に近く、それを1人でまとめ上げて納品まで持っていくのはとても大変なことです。制作進行では対処しきれない場合も多い。そんな時に制作1人で抱え込むような状況にならないように、制作デスク・プロデュ―サー・設定制作、そして先輩制作進行たち、スタジオ全体で乗り切れるような制作現場にできればと考えています。
最近ボンズフィルムの複数のスタジオの作品に、ある同じアニメーターの方が同タイミングで原画として参加してしまっている、という事態になっているのをたまたま目撃しました。それぞれの作品の作業スケジュールも被っていましたが、そこですぐに各スタジオのデスクや制作進行が連携して情報交換し、それぞれの作品の優先度を加味して作業順を決めていました。それを見て、むしろ私が制作進行をしていた時期よりも、社内の別スタジオとの連携は取れているのではと感じました。私の制作進行時代は、他スタジオもライバル視して、あまり積極的に情報共有しない、なんてこともあった気がするので……(笑)。

一つ屋根の下 ボンズフィルムが大事にする一体感
――スタジオ間の連携は、難しい面もあるのではないかと想像します。他のスタジオを助けることで、自分のスタジオが回らなくなってしまうことなどはないのでしょうか?
竹本順仁:スタジオ内はもちろん、他スタジオとも何か問題が発生した時には助け合った方が、結果的にお互いの制作作品がより上手く回ることになると思います。
上手に回っているスタジオというのは、デスクやプロデューサーだけでなく、制作進行まで自分の担当以外の話数状況も把握して、作品全体を俯瞰して見ることができていると思います。制作同士が助け合えるということは、現場レベルでしか見えない小さなトラブルも早めに共有して、リカバリーできる状況が生まれるということ。私もプロデューサーとして、そういうスタジオにしていきたいと常に考えています。 そしてプロデュ―サーに関してはその状況把握の範囲が、自身のスタジオだけではなく社内全体、他のスタジオまで及んでいる必要があると考えます。
――お話を聞いていると、徹頭徹尾、ボンズフィルムは、連携を重視しているように感じます。
竹本順仁:そうですね。スタジオ間の繋がりが強くて、何か問題が起きた時もフォローアップのスピードが早い。プロデューサー間でも常時情報交換をしているので、助け合う環境が整っているのかなとは思います。
スタジオごとに個性は違いつつも、やっぱり同じ社屋にあるので「ひとつ屋根の下」という一体感はあって、お互いの状況を理解して、みんなで助け合っていこうという雰囲気はあります。ボンズ及びボンズフィルムとしての会社の精神が、制作現場にも引き継がれているのかなと。
本当に、時間をかけるべき業務に取り組める時代に
――近年はデジタル化も進んでいます。制作進行の業務にはどのような変化がありましたか。
竹本順仁:デジタル化によって、移動時間や雑務にかかる時間が短縮されていると思います。私が制作進行をしていた10年前より、効率化されていることも多いです。例えば、上がりを車で回収に行く「外回り」と呼ばれる業務がかなり減りました。紙で作業される方のところには直接うかがうこともありますが、デジタル作画の方が増えたので、メールなどでのやりとりで済む場合も多い。デジタル化とは関係ないですが、深夜帯の「外回り」は専門業者の方にお願いするようになっています。
また、遠方のアニメーターさんともデータでやり取りできるので、東京の方でなくても上がりが手元に届くまでのタイムラグがなくなり、仕事をお願いしやすくなりました。これもデジタル化に伴う仕事の効率化の一つだと思います。
細かいところですが、背景原図(背景の発注用にカット毎に作成する作業者への指示素材)についても改善があって。かつては、制作進行が背景原図用に紙を出力して、セルや背景素材の指定を色鉛筆で塗り分ける作業を行い、その紙の束を背景会社へ持っていったりしていたのですが、今はデジタルツールで比較的簡単に原図作りができて、そのデータを送るだけで済むようになりました。
――デジタルの恩恵は大きそうですね。
竹本順仁:それは実感しています。雑務の時間が減ったので、本当に時間をかけたい業務、アニメーターさんとのコミュニケーションなどに時間を使える環境になってきています。



