
次世代クリエイター予備軍のための実践型育成組織「CANTERA」の全容
――2023年からは、若い世代のクリエイター向けに「CANTERA」(カンテラ)という育成プロジェクトを開始しています。こちらはどのようなプロジェクトですか?
石井龍:CANTERAは、アニメーション制作全般を対象とした若いクリエイター向けのコーチングプロジェクトに近いですね。現在はloundrawをはじめとするスタジオメンバーによる技術共有や、僕も含めたプロデュースユニットによる思考整理のサポートを通した学びの場となっています。企業と学校がタッグを組む産学連携的な組織をイメージしてもらえればわかりやすいと思います。とはいえ、いわゆる画塾的な教育機関のようなものではなく、メンバーにも場合によっては僕らの現場に参加してもらうことで、経験値を積みながら相互に学ぶ実践型育成という形態を採っています。
ただし、ほぼ創作未経験から所属することになった子もいるCANTERAのメンバーなので、全員が同じ条件で参加しているわけではありません。現在16名ほど在籍していますが、業種やプロジェクトの関わり方、契約の条件も個々人で大きく違います。
――そうした異なる契約条件は、どのように決定していくのでしょうか?
石井龍:CANTERAに参画してコーチングを受けているだけの段階では、報酬は発生しません。例えば、技術力を10段階に分けた時に2、3レベルに到達するメンバーには、その時動いている自社案件に入ってもらうようになります。最初は難易度の低いショット案件から始めて、技術が上がり安定した成果物を出せるようになれば、定額報酬でさらに深くコミットしてもらえるような提案を用意します。さらに「フリーランスとして継続していきたい」と本人が志願すれば、より継続的な業務委託契約に移行する、といった流れになっています。育成期間終了後のキャリアプランも、メンバーによって様々ですね。そのままFLAT STUDIOへ参画してもらうメンバーもいますし、別のスタジオで活動するという選択肢もあります。来年度の内定予定者を含めて、FLAT STUDIOの25%がCANTERA出身者になります。
――「CANTERA」は実践型育成を掲げていますが、具体的にどのような手法を採用されているのでしょうか?
石井龍:能力は「技術」と「思考」で分けて捉えているのですが、技術軸で言うと一番効果があるのは各業種ごとに課題を毎月提出して、その添削をスタジオメンバーやCANTERAメンバー同士で行う講評会のようです。添削を受ける子に聞いたところ、添削者が添削以上にヒアリングに重点を置いており、全員に同じことを教えるスタイルではなく、その人個人のビジョンをヒアリングした上で、そこに合わせた添削を行っている。だからこそ、内容が本人に沁みやすく、技術の定着が早いのだと教えてくれました。FLAT STUDIOは「言語化」を重んじる風土があるので言語化に注目されがちですが、実はその手前のヒアリングに基づいた添削が、技術力が伸びる一番の要因のようです。
また、広い意味でのカリキュラムで言うと、実践の場への参加も技術が伸びる要因とのことでした。足場を固めて1から10までカリキュラムで育てるのではなく、案件を通してあえて足場を崩すような機会を作り、定期的にそういった実践の場があることで、最終的には添削がなくても自分で課題を解決できる自走力が身につく── スタジオメンバーやCANTERAメンバーの多くは、CANTERAの特徴をそのように捉えているようです。監督・アニメーターのasano66が添削時に「技術じゃなく考え方を教えたい」と伝えているようで、それがCANTERAでの添削スタンスを表していると感じます。彼がそのようなことを伝えていると、僕は初めて知ったのですが。

独立型アニメスタジオが手痛いミスマッチを防ぐ、実践型採用の極意
――理屈としては腑に落ちつつも、実際にそんなにうまく、若い方々が切磋琢磨してくれる環境を構築できるものなのでしょうか?
石井龍:ここでコミュニティ運営のすべてを事細かに話すのは難しいですが、大事なのは、いかにコミュニティ内のテンションを高く保つか。そのためには、モチベーションが高くチームが目指す方向を向いているメンバーが1人ではダメで、必ず2、3人必要なんです。すると、他のメンバーたちのモチベーションも自然と上がっていくんですよね。全員が牽引する必要はないですが、強いて言えばまずはその状態に至ることが重要だと考えています。なので極論ですが、僕がやることと言えば、矢印が上手く前を向いていない子たちの方向性を整えるくらいで、矢印が前を向いている子たちがCANTERAを牽引していってくれるような仕組みになっています。
――石井さんはあくまで、チームを牽引できるメンバーが生まれるように手助けするだけで、それができればCANTERAは自然に回っていくようになっていると。
石井龍:CANTERAの運営は僕以外にも「窓口」という役割でFLAT STUDIOの各部署のクリエーターも参加しています。FLAT STUDIOではクリエイターがマネジメントを行うケースもあるとお話ししましたが、CANTERAでも、応募時の業種にこだわらず、フレキシブルにメンバーの配属が変わります。本人の希望や適性次第で、参加する育成プロジェクトのコースを「背景美術」から「イラストレーター」に変えたり、技術軸以外でもCANTERA側に「キャプテン」、「副キャプテン」という管理業務を担う子がいます。「ONE IS ALL」の理念通り、様々な業種に開かれた環境でありたいんです。
――過去にはイラストの制作経験がほとんどない方がクリエイティブ側として参画したとうかがいました。個性豊かな人材に門戸を開いているCANTERAで、メンバーを選ぶ基準はどういうものなのですか。
石井龍:僕は、スタジオを一つの生態系として捉えています。例えば生態系にライオンだけしかいなければいずれ食べ物がなくなる。鹿や鳥といった様々な種類の生き物がいて、初めて一つのサイクルとして機能する。組織においても同じようにバランスを考えた時に、その集団がうまく回るようにするための“キャラ”の配置が必要なんですよね。技術が高くてもコミュニケーションの取りづらい人が集団を埋め尽くしてもダメですが、逆にコミュニケーションが苦手でも技術的に説得力のある子が馴染めるようなバランス調整を心がけています。なので現時点では上手くないけどポテンシャルがある子や、指揮ができる子など、生態系の中で多様な役割りを担える“キャラ”が同居することも大事だと思います。実際、イラストの制作経験がほとんどなかった子の一人は、現在、CANTERAを指揮するキャプテンを務めながら技術習得に励んでいます。
FLAT STUDIOがいわゆるアニメスタジオとはかなり異なる組織構造と社風なので、採用という観点からすれば、通常よりもミスマッチが起こりやすく、採用してからそれが発覚したのではお互いダメージが大きいです。CANTERAは、僕らとしても、これから一緒に働くかもしれない仲間がこの生態系に住めるか住めないかを知る場所でもあって、慈善事業として学びの場をただ提供しているわけではなく、関係者の全員にとって意味のある場でありたいと思います。講師として教える立場にあるFLAT STUDIOメンバーの技術力向上にも実は大きく貢献していて、他者に伝えることを通して、自分の技術を体系化していくという側面もあって、これまでのところ、うまく機能しているという実感があります。




